「談話室」はサイトウ歯科に来院中の患者さんより

お寄せいただきました文章を、原文のまま、ご紹介しています。

先手必勝

千葉県八千代市  古川 員代  63才

 

 それは、梅雨明け間近の鬱陶しい日だった。歯の定期健診のために、日暮里経由で千葉から蒲田へむかった。これといって歯の不具合も無いし、ま、奥歯の多少のぐらつきは年齢相応で仕方が無いとして、今日はパスしてもよかったのではないかな?と、思いつつ。

 「奥歯の揺れは、噛み合わせからきていると思います。先生が参りますので、少々お待ちいただけますか?」娘よりも若い歯科衛生士のキッパリとした言動と、その診断の的確さに、さすがプロだなと信頼がわいた。治療していただいた後、歯のぐらつきとそれに伴った痛さはなくなっていた。そして、加齢に妥協していた自分に“まだまだいける”と自身がわいてきた。

 思えば遥か昔、ここ斉藤歯科医院を訪れたのは、わずか5歳の頃。奥歯にポッチンとできた虫歯で、初めてあの治療用椅子に座った。先代の院長先生は優しかった。誠実だった。私達患者との一期一会を大切にして、納得のいく治療をしてくれた。そしてその志が、ご子息である今の院長先生に引き継がれている。私は、こんな冗談を担当の衛生士に時々いう。「御覧なさい、私の口の中には、サイトウ歯科の歴史があります」と。

 医者と患者との出会いには運・不運がある、とよく言われる。だが、最近は、突発事故で無い限りは、自分で医者を選び、納得のいく治療を受けるようになってきている。ことに私はその傾向が強いように思われる。「あなたの歯の状態は‥それはこんなお手入れの方法や治療法があります。」など、十分な説明を聞くと嬉しくなる。振り返れば50年以上もこちらに通い続けていたのも、そんな所にあったような気がする。

 歯のぐらつきは噛み合わせが原因だったなんて、思ってもみなかった。歯茎が衰えると、噛み合わせも違ってくるらしい。専門家にとっては初歩の初歩かも知れないが、私にとっては新しい勉強だった。“先手必勝”これで暫くは大丈夫。スタッフの明るい笑顔と定期健診に感謝しながら、家路へと向かった。